準構造とは?

近年、音響に配慮して複雑な形状を必要とする劇場・ホールなどの天井を設計する際、“準構造” と称して従来のLGSなどによる仕上げ材の延長で処理する例が散見されます。

そもそも “準構造” とは、同じく劇場などで音響上大きな質量を必要とする天井などを、仕上げ材の延長で実現するのではなく「構造」として計画・施工し、主要構造部と同様に耐震安全性を付与することをいいます。この定義は、日本建築学会「天井等の非構造材の落下に対する安全対策指針・同解説」(2015)のなかで、東京大学生産技術研究所川口健一教授が提唱されたもので、安全性確保のためには「構造材と同様に使用材料の管理、構造設計、構造計算、施工管理、工事監理」がなされるべき、という重要な主旨を含んでおり、「準」にまどわされて「構造」の次に強ければよい、というようなあいまいな定義ではないのです。

その前提で、市中に出回る自称“準構造”と呼ばれる例をご覧いただきたい。上記の定義を満たす天井は一つも存在していないにもかかわらず、“準構造”という用語が独り歩きをしてはいないでしょうか。本来の、落下時に重大な事故につながる大きな質量をもつ天井を“準構造”として計画し、高い安全性を確保する、という重要な主題が、国交省告示でいう“吊天井”逃れの免罪符として使用されてしまっているのが現状なのです。

なぜ市場では、国交省が告示で定める“吊天井以外の天井”の判定に、わざわざ日本建築学会の指針で定義した “準構造” という用語を用いて“特定天井”としての規制の対象から逃れようとするのか、をよく考える必要があります。

“準構造” と呼べば、容易に建築確認が通る、または専門メーカーが設計者に説明しやすくなる、などの消極的技術論で用いられているとすれば、とんでもない脱法行為といえます。

“準構造” とするならば、定義通りに「構造材と同様に使用材料の管理、構造設計、構造計算、施工管理、工事監理」を行わなくてはなりません。

ではここで、市中でわざわざ “準構造” と呼び “特定天井” の規制を逃れる必要がどこにあるのかを考えてみましょう。

 

まず一番目の課題が、劇場・ホール等の天井の複雑な形状です。音響上の配慮から、様々な角度や凹凸形状を呈する必要があります。ところが、国内の軽量鉄骨材を下地とする乾式工法天井の耐震化技術は、かように複雑な形状の天井を地震動に対して制御できるほど進んでいないのです。特にブレースと端部のクリアランスを用いて、質点として地震時の応答を制御しようとする場合、このような形状の天井を設計するのは現時点では不可能に近い。

さらに、劇場・ホールの天井内には様々な演目演出のための照明設備や音響設備、吊ものバトンなどの機能を設け、またそれを操り、維持管理していく必要があり、実は多数のスタッフが往来する空間なのです。そのため、天井内にも高い空間があり、人が往来するキャットウォークと呼ばれる通路や、照明、音響設備を収納し操作する小屋組みまで設ける場合も多い。その結果、通常の軽量鉄骨(いわゆるJIS A6517材)による天井を構成しようとすると、非常に長い吊材を必要とし、そのうえ上記のような天井内設備を避けながら吊れる場所を探して天井を支持する、ということになります。現場合わせの施工が横行し、作業員の技能の差も性能に歴然と現れてしまうことになるのです。

これらの解決困難な課題の中、地震時にも安全安心な天井を設計するには、現時点の建築技術を用いるならば、構造躯体同様に十分な剛性や強度を持つ支持構造部に直接的に天井を緊結する方法が有効です。それではキャットウォークやぶどう棚の形状通りの天井にしかならないではないか?と思われるかもしれませんが、その逆で、求める天井形状なりに、十分な剛性と強度を持つ天井支持構造部を設け、そこに天井を緊結すればよいのです。ただし、この十分な剛性と強度、に対し建築基準法本文にも、国交省天井告示の中にも明確な定義がないため、設計者が判断し性能設定することになります。ついぞ設計者も、専門メーカーにどうすればいいのか?世の中には山ほど事例があるではないか?と質問してくることになり、そこで“準構造”の出番となるわけです。

 

「“準構造”という考え方があります。これを使えば特定天井になりません。」

支持構造部に直接的に緊結する天井は、地震時に構造躯体と一体となって揺れるため、地震時に揺れが天井面で増幅することが少ない、という特徴をいかした設計をすることが重要となります。そのためには剛性がとても重要で、主要構造が持つ固有周期と共振しない、十分な硬さを持っていることが前提となります。国交省天井告示の中では、固有周期0.1秒以下の天井は“剛”な天井として、稀な地震時※1に0.5Gの水平力に対する設計を許容しているのはこのためです。

 

支持構造部に対し、上記以上の剛性(硬さ)を発揮できる緊結さえできれば、天井面にはブレース構造の吊天井のように過大な地震時の揺れは生じません。その結果、天井端部のクリアランスも必要なくすることができ、音響的にも劇場・ホールとしての機能を全うすることができるようになります。クリアランスはレゾネーターとして働くため、劇場・ホールでは極力排除すべき、とされています。この工法は慣例的には“ぶどう棚直貼り天井”などと呼ばれており、新しい工法でも何でもありません。手慣れたメーカーは、しっかりした野縁受材にハット型の形状をした野縁を緊結するだけで実現したりしている工法です。“専用金具”などと称して、様々な偏心を伴う接合金具を多用するメーカーがありますが、その結果天井全体の剛性が低下し、せっかくぶどう棚に緊結しても天井が揺れて変位が出たりしてしまうことになります。それを販売用の動画にしてHPにUPしているメーカーもあり、驚きが隠せません。あれだけ揺れると、天井の出隅入隅すべてにクリアランスが必要になります。これだけでも劇場・ホールの天井として機能できなくなります。

 

そんな課題を横において、ここでもただの“ぶどう棚直貼り天井”です、という説明より “準構造” です、と説明することで、いかにも専門メーカーが耐震性に配慮した天井です、というような修飾をまとうことができ、ユーザー理解を求めているのだろうと想像されます。

染野製作所では、天井形状なりに天井仕上げ材を緊結する支持構造部から設計し、供給します。過去、天井下地メーカーのほとんどが、この支持構造部の設計ができずにいました。この部分は“別途建築工事”などとし、そこに天井を緊結する行為だけを対象工事とし、これを“準構造”などと称しているようですが、重要なのは支持構造部と天井を含めた、主要構造部に対する天井の系全体の剛性なのです。したがって、安全安心化を目指すためには、この支持構造部をきちんと設計し管理できなければ、本来の天井専門メーカーが果たすべき職責が全うできない、と染野製作所は考えます。